こんにちは。ライター/ライフカウンセラーの山﨑です。
突然ですが、こんな経験はありませんか?
「もっと効率よくできたら良かったのに…」とか、「この時間、無駄だったかな」と感じる瞬間——。
そんな悩みを解消する言葉として、最近よく耳にするのが「タイパ(タイムパフォーマンス)」です。
確かに、「タイパ」を意識した過ごし方は、忙しい毎日を乗り切るうえで役立つことも多いでしょう。
でも、私はタイパを追求しすぎることで、気づかないうちに「人生の喜び」や「本当に大切なもの」を見失ってしまう危険もあるのではないかと感じています。
この記事では、タイパ重視の「落とし穴」と、効率だけでは得られない幸せについて考えていきます。
タイパとは何か?
「より少ない時間で、より大きな成果を得る」という考え方
「タイパ」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。これは「タイムパフォーマンス」の略で、時間あたりの生産性、つまり「より少ない時間で、より大きな成果を得る」という考え方を指します。
この考え方が特に注目されるようになった背景には、Z世代のライフスタイルも影響しています。
物心ついたときからITに触れている「デジタルネイティブ」のZ世代には、動画を倍速で視聴したり、SNS・ショート動画のような短い形式の情報を好んだりと、「効率的な時間の使い方」が浸透しています。
でも、これはZ世代に限りません。社会全体において、仕事や学び、趣味など、やりたいことがたくさんある一方で、「時間が足りない!」と感じる人は増えています。
そんな中、タイパは「効率よく時間を使いたい」という人々の願いを叶える考え方として注目されるようになりました。
「別にタイパなんて意識していない」という人でも、日頃から仕事の効率を上げるツールの活用や、オンライン講座で一気に知識を吸収する、といったことはしているはず。
ある意味、これらもタイパを重視した行動といえるでしょう。もはや現代人のほとんどは「タイパの海で泳いでいる」と言っても過言ではないのかもしれません。
タイパがもたらすメリット
タイパの魅力は、時間を効率よく使う満足感を得られること。
たとえば、通勤中にポッドキャストで学びを深めたり、家事をしながらドラマを楽しんだりと、一度に複数のことを達成できると、1日の終わりには「今日もたくさんのことができた!」という充実感がありますよね。
もちろん、気持ちの問題だけではありません。タイパがうまく機能すれば、自分のための新しい時間を生み出すことができます。
たとえば、仕事の効率化によって趣味に没頭する時間を増やしたり、短縮された家事の時間を家族との会話に使ったりすることで、ストレスレベルを下げ、満足度の高い暮らしを送ることも可能でしょう。
これだけ忙しい現代社会において、「タイパ」を意識する生活には、少なからず良い側面があるといえます。
タイパ重視によって失ってしまうものとは
ただ、私は「タイパ重視」の生き方によって、とても大事なものを失ってしまうと考えています。
それは、大きく2つ。ひとつは「人生を彩る喜びと心のゆとり」、そして、もうひとつは「自分の頭で考え、答えを見つけていく力」です。
それぞれについて、以下で詳しく触れていきますね。
人生を彩る喜びと心のゆとり
そもそも「人間らしい豊かさ」は、効率を求めない時間の中で生まれることが多いものです。
たとえば、友人との何気ないおしゃべりや、たまたま見た映画、ボーっと散歩する途中で目に留まった可愛い花——こうした、生産性とは一見「無駄」に思える出来事や物事が、私たちの心を揺さぶり、新たな発見や感動をもたらしてくれることがあります。
でも、何でも効率的に片付けようとすると、こうした日常の小さな喜びを見逃してしまう場面が増えるでしょう。
もちろん、効率化を否定するつもりはありません。
でも、これまでの人生を振り返って「何が自分の心を満たしてくれたか?」を考えたとき、それが「目に見える成果」や「数字」だけ、という人はほとんどいないはずです。
むしろ、「学生時代、時間を忘れて部活動にのめりこんだ日々」や、「大好きな人に全力で恋をしていたときの気持ち」など、決して「効率」では語れないような思い出や記憶が、いまの自分を形作っていると感じる人は少なくないのではないでしょうか。
それに、まったく効率や成果を意識せずに軽い気持ちでやってみたことが大好きな趣味になった、なんていう経験をしたことがある人も、きっとたくさんいると思います。
忙しいからといって「効率」や「タイパ」ばかり重視して生きていると、ふとした瞬間に「なんとなく空っぽな気持ち」や「生きていくむなしさ」を感じてしまうこともあるかもしれません。
一見、無駄にも見える、けれども人生を彩り、自分の心を豊かにしてくれる大切な体験が、いつの間にか置き去りにされているからです。
人生は大変なことも多いです。そんな人生の中で、私たちが心を豊かにし、日々を心から味わい尽くすためには、効率とは無縁の「ゆったりとした時間」や「意外な体験」を楽しむことが、やはり大切だと感じます。
自分の頭で考え、答えを見つけていく力
また、タイパを優先しすぎると、どうしても「すぐに答えがほしい!」と焦ってしまうことにもなりがちです。
たしかに、今はネットを使えば簡単に情報が手に入る便利な時代。でも、楽に答えを集めようとすればするほど、その分、「自分でじっくり考える時間」が減ってしまうことも事実です。
実は、じっくり悩んだり考えたりする時間は、自分の価値観を深めたり、本当にやりたいことを見つけたりするためにとても大事です。
ですが、効率優先の生活を続けていると、どうしても考える時間が減ってしまい、表面的な答えに頼りがちになることがあります。
表面的な答えは、仕事などで必要となる簡単なHow Toを知るには十分役立ちます。しかし、自分の心を根底から満たすものとは言えない場合が多いでしょう。
しかも、現代は「予測不能の時代」といわれ、社会の変化が激しい中で未来を正確に予測することは、どんな専門家でも難しいとされています。
人生を効率的に生きるための「答え」を探したとしても、1年後、3年後には、その「答え」自体が変わってしまうことだってしょっちゅうです。
こんな複雑で曖昧な時代を自分らしく生きていくためには、自分の頭でじっくり考え、自分にとっての本当の理想の生き方や幸せを見つけていく力が必要不可欠です。
タイパ思考に飲み込まれないようにするにはどうすればいい?
そうはいっても、忙しい毎日を過ごしていると、現実的に「タイパで考えなきゃ時間が足りない!」と感じることもありますよね。
実際、私も情報収集の場面では、YouTubeを倍速で視聴したり、効率的に本を読み進めたりすることがあります。
ただ、意識しているのは、「タイパ思考を使う場面」と「そうでない場面」をはっきり分けることです。
たとえば、私は仕事やスキルアップのために情報を集めるときは、関連するテーマで複数の動画を観たり、本を数冊読んだりして、多角的な視点を持つようにしています。これによって、情報が偏らず、理解が深まるからです。
でも、日常生活には他にもやるべきことがたくさん。
ですから、時間が限られる中では、ゆっくり解説する動画を2倍速で聴きながら家事をしたり、さっと読み流す方法で本をチェックすることもあります。
一方で、アートに触れたり、旅に出かけたり、本当に好きな本を読んだりと、自分の感性を育むような体験にはタイパを持ち込まないようにしています。
そういう時間は、心を開放して、自分とじっくり向き合うことが大切だと感じるからです。
また、将来のことを考えたり、自分の価値観を振り返ったりする時間も、効率より「深さ」を意識しています。あえて効率を気にしないことで、心に余裕が生まれ、物事の本質が見えてくることが多いです。
だからこそ、「ここはタイパで考えてOK」「ここはじっくり時間をかける」とメリハリをつけてみると良いと思います。
必要に応じてタイパを活用しつつ、大切なことには時間をかける。このバランスを取るだけで、毎日が少しずつ豊かになっていくはずです。
効率から離れたところに、自分にとっての幸せがあるかもしれない
タイパ思考が悪いわけではありません。限られた時間を有効活用するために、効率を意識することは現代社会を生き抜くうえで大切なスキルの一つです。
でも、「時間をかけることでしか得られないもの」も、確かに存在します。それは、感性を磨く体験だったり、誰かとの深い対話だったり、あるいはじっくり考えた末にたどり着く自分だけの答えかもしれません。
効率を求めるあまり、その大切な何かを見過ごしてしまったら、少しもったいない気がしませんか?
時には効率を手放し、自分自身と向き合い、心が満たされる瞬間をじっくり味わう。そんな時間こそが、私たちの生きる喜びを形作っているのだと思います。
皆さんも、効率だけでは計れない幸せについて、ぜひ考えてみてください。